~アジアパラ競技大会に出場する選手を応援しよう~

アジアパラ競技大会に出場する選手を知って、選手を応援するシリーズ。
今回は、パラ陸上の大島健吾選手に話を聞いた。

■元ラグビー部 義足は「自分にとって当たり前」

愛知県瀬戸市の中心部から、北東へ車で約30分。パラ陸上の大島健吾選手は、岐阜県境に近い山あいにある名古屋学院大瀬戸キャンパスを拠点に、練習に取り組んでいる。身長174㌢、体重76㌔。引き締まった肉体と日焼けした肌が、この秋行われる国際大会へ向けて順調に練習を重ねてきたことをうかがわせる。「今は夏なので、どんどん体が絞れています」。大島選手は精悍な笑顔でそう応えてくれた。

誕生日は2000年1月1日。西暦の下2桁が年齢と重なる

実際、それが成果にもなって現れている。今年5月16日に行われた国内大会男子100㍍(義足T64クラス)で11秒11、翌日の200㍍(同)で22秒76を記録し、いずれもアジア記録で優勝した。2022年以降、脚のけがなどに苦しんでいたが、現在は完全に復調。「これからも様々な点で走りをアップデートさせ、アジアのトップから世界の頂点を目指していきたい」と大島選手は目を輝かせる。

体を鍛え、義足の改良を重ね、五輪のトップ選手よりも速く走りたいという

もっとも、陸上を本格的に始めたのは、2018年4月に名古屋学院大法学部に進学してから。それまでは、通っていた地元の県立瀬戸西高でラグビー部員として活動していた。生まれつき欠損していた左足首より先の部分を日常生活用の義足で補い、守りの要となるフランカーを任されてフィールドを駆け回った。「『義足なのにすごい』って驚かれることもありますが、それが自分にとって当たり前だったし、周囲もそんな自分を自然に受け入れてくれて、楽しくプレーすることができました」と大島選手は話す。 そんな大島選手の身体能力に注目したラグビー部顧問の教師に勧められ、高校2年の時に静岡県で開かれたパラアスリート発掘イベントに参加。カーボン繊維のブレードの付いた競技用義足を体験して、自らの運動能力を拡張する可能性を感じ、2018年4月に進学した大学で陸上部に入った。「競技用の義足を使うことは、自転車での移動から、急に自動車で移動する感覚に近いものがありました。『この義足を履いたら、もっと速く走れるかもしれないという可能性が目の前に転がっているのに、飛び込まない理由はないと』という思いで、大学では短距離競技に新しくチャレンジしました

義足の重さは1・5㌔ほど。「ブレードが皆さんおもっているより重いんです」

■世界のトップ見据え、まずは10秒台を笑顔で

選手の自主性を重んじるコーチの指導にも恵まれ、能力をめきめきと発揮し、2020年9月に行われたパラ陸上国内大会の男子100㍍で優勝。2021年3月の大会では男子100㍍でアジア新記録を成し遂げ、東京とパリで行われた世界大会に出場し、東京では4×100㍍ユニバーサルリレーで銅メダルを獲得した。その時の喜びが自国開催ということもあって、これまでの競技生活の中で最も印象に残っているという。

そして、最近の活躍は冒頭でも触れた通り。自身では「最も重要な試合」と位置づけている2028年の国際大会に合わせてピークを持って行けるよう調整をしているが、「できれば35歳ぐらいまで、競技を続けていきたいと思っています」とも話す。その中で当然、超えなければならない課題も残っているという。「やはり、ヨーロッパのトップアスリートとの間にある歴然とした差を少しでも縮めること」。100㍍で11秒を切ることを目下の目標に掲げる。そうしないと世界大会では決勝に残ることも難しいという。さらにその先、トップをつかみ取るためには10秒60台で走らなければならない。

義足は水戸市にある義足専門の工房でフルオーダーして作っている

そのために、現在は出身大学のアスリートクラブに所属し、午前10時から午後1時ぐらいまで練習をし、自宅に戻って食事を摂ってから、午後5時から7時まで練習を繰り返す。「10秒台は自分の中で見えてきています。しかし、さらに先のレベルを目指すためにはもう一段工夫をしなくてはなりません」。その余地がわずかでも残されていれば、可能性を貪欲に探る。「自分の体力だけではなく、体の一部と化した競技用義足の改良にも大学の先生たちと共同で取り組んでいます」と大島選手は教えてくれた。

生まれも育ちも瀬戸市出身で、地元を拠点に活動を続ける。「何かあれば名古屋にすぐ行けるし、瀬戸は落ち着いて住みやすい所」と大島選手は話す。実際、大学時代は名古屋市内にあるキャンパスに通い、名古屋名物の手羽先が好物でもある。「あれをバリバリ食べていると、自分がライオンになったような感じがして気に入っています」

試合前にこの笑顔が見られたら、結果に期待してよさそうだ

大きな大会が迫ってきても、特段焦ることはない。競技前のルーティーンも「髪を切る程度で、特別なことはしません」と大島選手。「為せば成る」を座右の銘に自然体で競技に臨む。強い意志と行動力をもって取り組むことで、あらゆることを成し遂げられるという、江戸時代の米沢藩主、上杉鷹山による名言が自らの競技姿勢とも重なる。

「競技では、どこに注目してほしい?」と尋ねると、「それぞれの選手が義足をどういうふうに使っているかに注目してほしい」と話す。自身については、スタートは得意な一方、「中盤の伸びが課題」と分析。「そこがどう成長しているかを見てほしい」と力を込める。さらに競技前の自分の表情にも注目してほしいという。顔がブスッとしていたら、調子が出ていないサイン。「反対に笑っていれば、調子はそんなに悪くなさそうと、期待してもらっていいのかもしれません」と、ニヤリと笑って答えてくれた。その笑顔を国際大会でも是非見てみたい。