矢来舞香選手
~アジア競技大会に出場する選手を応援しよう~
アジア競技大会に出場する選手を知って、選手を応援するシリーズ。
今回は、陸上競技の矢来舞香選手に話を聞いた。
■悔しさと猛練習の末に学生日本一 視界が開けた
トラックや道路上で決められた距離を歩く速さを競う――。競歩は見た目以上に過酷な陸上競技だ。タイムの速さだけでなく、フォームを維持しなければならないからだ。例えば、歩いている時、常にどちらかの脚が地面に接していなければならないし、前脚は接地から地面と垂直になるまで膝を伸ばしておかなくてはならない。コース各所で審判員が目を光らせており、それらの定義に違反すると、失格してしまうことも……。

「炎天下での練習も楽しみながら続けています」
兵庫県宝塚市出身の矢来選手が、そんな競技に出会ったのは地元の県立西宮高に進学してからのこと。中学では長距離の選手だったが、進学のタイミングで鉄欠乏性貧血になってしまい、陸上部で長距離を走っているとチームメイトにどんどん置かれていってしまう。落ち込んでいた時に、「長距離走にも役立つから」とコーチに勧められたのが競歩だった。
「練習できるのがうれしくて、幸い、大会に出る度にタイムを更新することができ、競歩に夢中になりました」と矢来選手は話す。実際、高校2年の時の全国高校総体では7位入賞し、世界ユース陸上競技選手権の5000㍍競歩にも出場した。

街中で歩いていると、市民ランナーから声をかけられることも

歩くフォームには細かなルールがあり、競歩は見た目より過酷な競技だ
そうした活躍が目に止まり、愛知県にキャンパスのある中京大学にスポーツ推薦で進学。大学では競歩に専念し、主に豊田市内にあるキャンパスで練習を重ねてきた。愛知での生活は矢来選手の生活にも合っていたようで、ひつまぶしなどの郷土料理を楽しんだり、名古屋港水族館に行ったりして、オフの時間も楽しむことができたという。「やはり、ひつまぶしは私の推しで、今でも名古屋に行くと必ず食べて帰ってきます」
もっとも、入学直後は選手層の厚さに自信をなくすこともあったという。高校の時にある程度実績を残していたので、大学の陸上部でもすぐに存在感を示せるだろうと思っていたが、なかなか結果を出すことができなかった。「悔しいという思いがずっとあって、大会がある度に泣いていました」と矢来選手は話す。それでも練習でチームメイトよりも長い距離を歩くことを自らに課して、それが徐々に大会の結果となって現れ始めると、「楽しいから、競技を続けたい」と思うようになったという。
一番、印象に残っている試合も大学時代とのこと。大学3年の時に岐阜市で行われた日本学生陸上競技対校選手権の女子1万㍍競歩で初優勝を果たした。「全国大会でも2位か3位のことが多かったので、優勝したことで視界がパーッと開ける感じがして今でも印象に残っています」と矢来選手は振り返る。それは自らに課してきた厳しい練習に結果がついてくることを確信した瞬間でもあった。

銀行業務はもちろんスーツで。「同僚に支えられて、競技を続けることができています」
■「食べ放題が大好き」 後半の粘り強さに自信
社会人になってからも競技を続けられる環境を探していた中、練習で出会った千葉興業銀行(千葉市)陸上部にいた先輩に憧れ、入社試験を受けて2021年に同行に入行した。現在は人事部人材開発室に所属し、行員研修などを担当しながら、練習に汗を流す「行員アスリート」として活動している。朝、出社前に練習をして、午前中は銀行の業務をこなし、午後から再び練習の日々。「大変そう」と問いかけると、本人は意外にもケロリとした様子で、「大学の時も講義を挟んでの練習だったので、それほど環境が大きく変わったわけでもありません」。それに同僚の支援も頼もしいという。「大きな大会前になってドタバタしていると、自分の抱えている仕事を同僚が代わってくれたり、応援のため、地方の大会に駆けつけてくれたり。今、こうして競技を続けられているのも、勤め先の理解と支援があってのことと感謝しています」

「持ち味のスタミナを発揮しますので、最後まで応援お願いします」
それにしても、154㌢の一見華奢な体のどこにそのようなパワーを秘めているのだろう。「高校で部活の顧問の先生がとにかく練習では距離を重視されていたので、長い距離を歩く練習を重ねているうちに、自然にスタミナがついてきました。特にレース後半の粘り強さが自分の持ち味だと思っています」。食事制限はせず、「食べ放題での食事も大好き」なのだとか。肉類もしっかり食べ、お酒も勤務先の同僚に誘われて、「ハイボールでもワインでも、食事に合わせて楽しんでいます」と矢来選手は微笑んだ。
2025年秋には東京で開かれた国際大会に日本代表として35㌔・㍍競歩に出場し、3時間1分27秒を記録。今後、国内外で実施される国際大会を見据え、さらにスピードを求めていきたいという。「やはりライバルたちと競い合っている時に、一定のスピードを維持したいと思っています。そのためには体幹や筋力の強化にも力を入れていくつもりです」。2027年の国際大会における女子マラソン競歩の出場権獲得を目指し、参加標準記録3時間28分00秒を切るのが現在の目標だという。「競歩は長丁場ですが、愛知での大会でも最後まで粘り強く歩きますので、最後まで応援をよろしくお願いします」
